ある朝突然に

date:2002-10-09

そういう場面に出くわすとは、考えたことさえ無かった。食事中の人には申し訳ないが、私はただただ通学途中、トイレに駆け込み、便器に腰をおろして排泄欲を満たしていただけである。ズボンだってちゃんと下ろしていた。きちんと拭いて、流して、個室のドアを開けた、まさにそのときである。女子トイレに入っていたことに気づいたのは。

個室の中に戻りドアを閉め、戸締まり用心火の用心体制に入った。さっきまで誰もいなかったはずのトイレが、だんだん騒々しくなってきて、ドアをノックする者さえいる。小心者の私は、かなり焦った。どのくらい焦ったかというと、こんなにおいしいシチュエーションで、隣を覗くことさえ思いつかないくらいに焦っていた。

長時間に渡って閉じこもっていたので、色々と考えた。とにかく不審に思われてはいけない。女の子であることをアピールするために、鼻血を出して、床に垂らしてみようか、とさえ思ったほどだ。しかし、どこかのおせっかい女が、多い日も安心なのを手渡してくるかも知れない。「大丈夫? 使い方分かる?」などと声をかけられたら、ひとたまりもない。小さな貧血大きなお世話というものだ。実際には、鼻血だから、できればティッシュペーパーの方がよい。

だいたいティッシュペーパーを手渡すときに、指の第二関節に生えている毛を見られてしまっては、男が入っていると判明してしまう。念のために、指の毛を抜きながら、人がいなくなるのを待っていた。もしも、誰かが怪しんで強引にドアを開けたりしたら、そこには、女子トイレに閉じこもって、指の毛を抜いている男がいるわけだ。あまり考えたくはない話である。

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